旅行やホテル業界では、すでにAIの導入は珍しいものではなくなっています。ただ、これまでは裏方的な活用が多く、現場での課題解決に直結している例は限られていました。そこに登場したのが、生成AIや言語モデルの進化です。これによって、これまで対応が難しかった「多言語対応」や「人手不足」といった課題に、ようやく実用的な解決策が見え始めています。
そんな流れの中で注目されているのが、2019年創業の Aiello。同社はホテル業界に特化したAIプラットフォームを提供し、すでに多くのホテルで実績を積み重ねています。
WiTの取材で、CEO兼創業者の Vic Shen氏 は、Aielloが目指す市場のギャップや、主力製品である Aiello音声アシスタント の特徴、そして競争の激しいAI市場の中で同社が持つ差別化ポイントについて語っています。
言語の壁と人手不足に挑むAiello
Aielloの挑戦は、特に人手を多く必要とするホスピタリティ業界の課題解決を目指すところから始まりました。Googleでの経験を持つCEOの Vic Shen氏 は、多言語対応による高品質なサービス提供の必要性に気づきました。
「ホテルやホスピタリティ業界は、まさに私たちが解決できる分野です」とVic氏は語ります。
ピーク時には、ホテルのスタッフの50〜60%がインターンや臨時雇用でまかなわれることも少なくありません。しかし、その時間帯でもシニアスタッフと同等のサービスを提供する必要があります。「経験の浅いスタッフを、どうやってベテラン並みの品質に育てるかが課題です。
人手不足への対応は単なるコスト削減にとどまりません。一貫したサービス品質を保つことも重要です。だからこそ、言語テクノロジーが人手不足を補い、ホテルの運営コスト削減にも役立つのです」とVic氏は説明します。
100室のホテルなら通常スタッフ比率は2〜3人に1人必要で、200人規模の人員が必要になります。しかし、AIを活用してスタッフ比率を下げられれば、ビジネスモデルを変え、利益を早期に出すことも可能です。
AielloのAIプラットフォームは、単なる業務支援ではなく データ活用を中心に据えた仕組み になっています。音声によるリクエストをアクションに変換するだけでなく、会話内容を蓄積して将来の活用に備えます。
「ゲストはメールを送り、電話をかけ、スタッフと会話します。それらすべてが生データになるのです。そして大量の生データをCRMに手作業で入力するには膨大な時間がかかります。大規模言語モデルはその問題を解決します」とVic氏は語ります。

データ・インサイト・長時間の会話も丸ごと解析
Aielloのテクノロジーは「ひとつの型にはまる」単純なソリューションではありません。Vic氏によれば、Aielloのプロダクトは大きく3つの柱で構成されています。
AVA(Aiello Voice Assistant) – 客室内の会話を通じてゲストの要望を理解する音声アシスタント
- TMS(タスク管理システム) – AVAからのリクエストをタスクとして管理するシステム
- Vocol.ai – 音声会話をテキストに変換し、重要トピックの抽出や要約を自動で行うツール
これらは連携して動作し、まるで人間のスタッフがゲストの意図を読み取るかのように、情報を整理・解析します。
Vocol.aiは、通話やミーティング、インタビュー、ポッドキャスト、オンライン講座などを簡単に文字起こし・要約し、重要事項を抽出して管理できます。
「AVAは会話のエンジンです。TMSはヘルプデスクやレコメンドシステムに似ていますが、AVAからのリクエスト内容をAIが理解してタスク化する点が違います。」とVic氏は述べます。
さらに、TMSでは「どの種類のチケットを作るか」「誰が担当するか」「エスカレーションまでの時間は?」などの業務フローも自由に設計可能です。
Vocol.aiは、音声やビデオ通話、テキスト、メール、PDFまで解析し、会話のトーンや意味、抑揚、目的を捉え、テキストデータとして活用できる点が特徴です。単なる文字起こしサービスとは異なり、「何を言ったか」だけでなく「どう言ったか」が重要なのです。
Vic氏はさらにこう強調します。
「大規模言語モデルは従来のモデルとは全く異なります。数十億のデータポイントを読み込むことで、ユーザーの意図を最大限理解できるのです。」
AI市場で差別化を図るAiello
Aielloの真価は、Vic氏が語るように 生のデータをホテル運営や顧客の嗜好、業務効率化に活かせるインサイトに変換する点 にあります。これが、一般的なデータ分析ツールとの差別化ポイントです。
AIがあふれる市場での戦略
ChatGPTの登場以降、AIサービスは急増していますが、Vic氏は競争環境についても正直に語ります。
「私たちはホテルに必要なプラットフォーム全体を提供しています。単なるソフトウェア提供ではありません。」
Aielloはホスピタリティ業界に特化した垂直統合戦略を採用しており、業界固有のニーズに最適化されたソリューションを提供します。Vic氏は、今後この分野の新規プレイヤーにとって、Aielloのソリューションが標準的な参照モデルとなると考えています。
「AIはただの流行語にすぎません。重要なのはソフトウェアの活用です。操作を効率化したり、アップセルをサポートしたりするソフトウェアを、実際に使う人がいるかどうかが鍵です。」
AI導入には課題もあります。長い歴史を持つホテル業界では、新しい技術を受け入れること自体が第一歩。さらに、SOP(標準業務手順)が確立されている中で新しいシステムを組み込むには、スタッフ教育や導入意欲も重要です。Vic氏はこう述べます。
「スタッフがこの技術を受け入れるかどうか、それがAI導入の最大の課題です。」
2024年、成長の年に
Vic氏は今後の展望についても語ります。
「2024年は私たちにとって成長の鍵となる年です。台湾、日本、シンガポール、香港で基盤を築いた今、次のステップはグローバル市場への拡大です。」
「初期の成功を活かし、Aielloを世界のホスピタリティテックで重要なプレイヤーにするのが目標です。」
まさに2024年は、Aielloがこれまでの成果を次の成長へつなげるターニングポイントになる年と言えそうです。
引用元: WebinTravel