AI関連の技術は本当に数えきれないほどあります。毎年発表される Matt Turck 氏の「AI and Data Landscape」を見たことがある方なら、その広がりの大きさに圧倒された経験があるかもしれません。
そんな中で、特に注目を集めているのが 自然言語テクノロジー(Natural Language Technologies) です。最近の調査でも、この分野が次世代のAIを牽引すると言われています。
実はパンデミックより前から、自然言語テクノロジーの市場は年20%の成長が予測されており、2026年には350億ドル規模に達すると見込まれていました。いまもその勢いは衰えておらず、新しい技術の進歩はすぐに実用化につながり、ビジネスの成果にも直結しやすいのが特徴です。
3つの主要な領域
自然言語テクノロジーは、大きく次の3つに分けられます。
- NLP(Natural Language Processing / 自然言語処理)
人の言葉をテキストから機械が扱えるデータに変換する技術。 - NLU(Natural Language Understanding / 自然言語理解)
言葉の意味を理解し、そこから行動や意図を導き出す技術。 - NLG(Natural Language Generation / 自然言語生成)
データをもとに、人間らしい文章を生み出す技術。
この3つは互いに補い合いながら使われ、人と機械の自然な対話を実現したり、人間同士のコミュニケーションを解析したりする基盤となっています。
本記事では、この3つをまとめて「NLP技術」と呼びます。
では実際に、企業はこれらの技術をどのように活用し、顧客を魅了するビジネスモデルや製品を生み出しているのでしょうか。ここからは、NLP市場をより具体的に見ていきましょう。
NLP市場を詳しく見てみると、製品やソリューションの開発において、それぞれ異なる注力点を持つ4つのタイプの企業に分けられることがわかります。
- NLPモデル企業
- NLP PaaS企業
- NLP SaaS企業
- NLPアプリケーション企業
NLPモデル企業
このタイプの企業は、新しい言語モデルそのものを開発することに注力しています。多くの場合、事前学習済みモデルをオープンソースとして公開しており、誰でも利用可能です。代表的な例としては、Googleが開発した BERT や、OpenAIが発表した GPT-3 があります。
これらの企業は、NLP市場における研究・開発の最前線を担っており、まずは言語技術の限界を押し広げることを目的としています。そのため、直接的で明確なビジネスモデルがあるわけではなく、基盤技術の進歩に主眼が置かれている点が特徴です。
NLP PaaS企業(Platform as a Service)
NLP PaaS企業は、言語モデルを開発し、それを収益化するビジネスを展開しています。開発者がNLPを活用したソリューションを構築できるよう、フレームワークを提供するのが特徴です。研究寄りで明確な収益モデルを持たないNLPモデル企業とは異なり、PaaS型の企業は明確に営利目的で活動しています。主な顧客は大企業のAIチームや開発チームで、最先端のNLPツールを提供することに力を注いでいます。
代表的な例として挙げられるのが Hugging Face と Rasa です。
- Hugging Face は「最新の自然言語処理モデルを構築・学習・運用できる」オープンソース基盤を提供し、幅広いNLP技術を網羅しています。
- 一方の Rasa は、会話型AIに特化しており、「人と機械の自然な会話」や「顧客体験の高度化」を支援することを使命としています。
これらの企業に共通するのは、NLPフレームワークの開発にリソースを集中させている点です。常に最先端の技術を追いながら、開発者のニーズや課題を深く理解する必要があります。そのため、多くのNLP PaaS企業は強力なオープンソースのライブラリを基盤とし、さらに活発な開発者コミュニティを抱えています。コミュニティは技術面のサポートだけでなく、新たな顧客獲得の入り口としても重要な役割を果たしています。
NLP SaaS企業(Software as a Service)
NLP SaaS企業は、自然言語テクノロジーを単体で提供するのではなく、特定のビジネス機能や業界の課題を解決するために統合されたソリューションの一部として活用しています。
- ビジネス機能に特化した活用
たとえば営業チーム向けの収益インテリジェンスプラットフォーム Gong。
同社は顧客とのやり取りをすべて解析し、案件状況やパイプラインの見える化、スタッフのパフォーマンス評価、市場インサイトの提供を実現しています。ここで重要なのは、まず営業チームの日常的な業務プロセスを理解し、それをどのように効率化できるかを設計することです。NLPはその基盤を支える役割を果たしますが、最大の価値は営業担当者にとってシームレスな体験を作る点にあります。
同様のアプローチは、HR、人事評価、財務、カスタマーサービス、マーケティングなど他部門にも広がっています。
このように、NLP SaaS企業はPaaS企業と異なり、リソースの多くをソフトウェア開発や分析、そしてUI/UXの設計に投入しています。必要に応じてPaaSのNLPモデルを利用し、自社向けに調整して組み込むケースもあります。
- 業界特化型の活用
一方で、特定の産業に焦点を当てたNLP SaaS企業も存在します。
医療分野に特化した Linguamatics はその代表例です。同社は自然言語AIプラットフォームを開発し、テキストマイニングを通じて価値ある情報を抽出します。その応用範囲は広く、新薬開発の支援から患者の声の把握までライフサイエンス全般に及びます。
こうした企業にとって重要なのは、単なる技術提供者ではなく「業界の専門家」として信頼を得ることです。そのためには、業界ごとのステークホルダーが直面する課題を理解し、適切なソリューションを提示する必要があります。競争優位を築くために、NLPモデルも業界固有のデータで訓練されているのが特徴です。
NLPアプリケーション企業
このカテゴリーには、消費者向けのNLP製品が含まれます。
たとえばスマートスピーカーや音声アシスタント、音声入力(ディクテーション)ツール、チャットボット、文章の予測変換などです。
こうした製品は単独で収益を上げるものというより、他のサービスの一機能として提供されるケースが多く、ほとんどの場合は利用制限のない無料サービスとして提供されています。
その役割は「独立したソリューション」ではなく、他のサービスを強化するための エネーブラー(支え役) として位置づけられています。そして、これらの製品の本当の価値は、利用を通じて収集される膨大なデータにあります。
ここまで、NLP技術を活用してビジネスを築く4つのアプローチを見てきました。
では実際に、これらの企業はどのような課題を解決しているのでしょうか? どのようにして自然言語テクノロジーを活かし、ビジネス上の喫緊の課題に応えているのでしょうか?
次のセクションでは、具体的な4つの事例を通して、自然言語テクノロジーがどのように企業活動に応用されているのかを掘り下げていきます。
- カスタマーサービス
「どうすれば顧客体験を向上できるか?」――その答えの一つは、顧客が「何を言い、何を考え、何を感じているのか」を分析することにあります。
ASAPPは、AIと自然言語テクノロジーを活用して、企業のカスタマーエクスペリエンスを向上させることを目的とした会社です。
同社は、カスタマーサービスチーム向けにNLPを基盤としたプラットフォームを開発しており、顧客との通話ややり取りを解析し、自動で文字起こしや要約を行います。さらに顧客の意図を理解し分類することで、非構造的なコミュニケーションを価値あるデータに変換します。
顧客体験(カスタマージャーニー)の各タッチポイントにNLPを適用することで、顧客が「どの場面でどのように感じているのか」を把握することができます。その成果は多岐にわたり、顧客満足度の向上、解約率の低下、アップセル機会の発見、スタッフのパフォーマンス評価などにつながります。
カスタマーサービスは本質的に「言葉のやり取り」で成り立つ領域であるため、NLPの効果は非常に大きいといえます。
- マーケットインテリジェンス
「市場を形づくるトレンドを、より深く理解するにはどうすればよいか?」
Dataminr は、リアルタイムでイベントやリスクを検知するプラットフォームです。TwitterなどのSNSを監視し、顧客企業のビジネスに影響を与える可能性のあるトレンドを即座に把握します。
こうした情報は、金融、公共機関、メディア、防衛など、社会や政治、世論の動きに敏感な業界にとって極めて価値があります。自然言語テクノロジーを活用することで、市場動向や競争環境を分析し、競争優位を築くとともに、リスク管理をより強化することが可能になります。
- 内部業務の効率化
「自社の業務をもっと効率的にするには?」
Eigen Technologies は、金融機関が保有する文書をNLPで解析し、意思決定に活用できるデータへと変換するソリューションを提供しています。膨大なドキュメントの中に隠れた価値ある情報を引き出し、実務に役立てることを目的としています。
業務のボトルネックは金融に限らず、どの業界でも存在します。情報は必ずしも組織全体でスムーズに流通するわけではなく、従業員は必要な情報を探し集めたり、管理システムを改善したりするのに多くの時間と労力を割いています。
NLPを使って社内のコミュニケーションや文書を整理すれば、情報が活用しやすくなり、業務の効率化を大きく後押しできます。
- マーケティング戦略
「適切な製品を、適切な顧客に届けるには?」
Albert は、AIを活用したさまざまなマーケティングソリューションを提供しています。その中には、NLPを活用してデジタルキャンペーンの効果を最適化するものも含まれています。
NLPを使えば、ターゲットとなる顧客層が特定のキャンペーンにどのように反応するのかを理解できます。さらに他のAI技術と組み合わせることで、キャンペーンの改善点を提案したり、自動的に調整を行ったりすることも可能です。これにより、顧客がどんな気持ちでいるのか、どのような購買プロセスをたどるのかを把握できるようになり、結果としてより精度の高いターゲティングと収益の向上につながります。
AlbertのようなNLPベースのマーケティングソリューションは、顧客にとって「より効果的に正しい相手へ正しいメッセージを届ける」手助けをしているのです。
自然言語テクノロジーを活用してビジネスを加速させたい方は、下記の「お問い合わせ」ボタンからご連絡いただくか、メール(enquiry@aiello.ai)までお気軽にお寄せください。Aielloがさらに詳しくご案内いたします。
Aielloは、幅広い業界において自然言語テクノロジーの豊富な知見を有しています。独自に開発した NLU SaaSプラットフォーム により、組織が自然言語理解(NLU)を基盤としたアプリケーションを構築できる包括的なフレームワークを提供しています。お客様の課題に合わせた最適なソリューションで、NLPの持つ可能性を最大限に引き出すお手伝いをいたします。
参照:
The Next Big Breakthrough in AI Will Be Around Language
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