環境への配慮が旅行トレンドである今、ホスピタリティ業界は岐路に立たされています。豊富なガジェットやアメニティ、利便性に満ちた従来のラグジュアリーの指標は、サステナビリティと本質主義の観点から見直しが進められています。
このミニマリズムへのシフトは、単なるトレンドではありません。物質的な豊かさより精神的な豊かさを優先するという、ラグジュアリーへの深い理解からきたものです。
レス・イズ・モア
ラグジュアリーな客室の象徴であった電話機やシェーバー用コンセント、携帯スピーカー、さらにはその利便性で一時人気となったコーヒーポッドは、ゲストがスマートフォンや私有デバイスなどを利用するようになり、滞在に欠かせないものとなりました。
ただ、特にコーヒーポッドは環境への影響が厳しく批判されています。手軽さは魅力であるものの、プラスチックとアルミと有機物が組み合わさっているのでリサイクルが難しく、埋め立てゴミになってしまうからです。
ラグジュアリーの見直しは、電子機器類や消耗品に留まらず、その他多くのホテルアメニティに及びます。パンフレットやフライヤー、客室内に置いていた雑誌や新聞など、かつてゲストのコミュニケーションの一部を担ったアメニティも、今やデジタルに移行しています。
また、利便性のため提供していたミニバーや水のペットボトルも不要だとして、地元製品の採用やウォーターサーバー導入など、ホテルはよりサステナブルなサービスを模索しています。
また、洗面用具や、装飾寝具、スリッパやバスローブなどの使い捨て用品の過剰提供は、かつての行き過ぎた消費を物語っています。
本物志向とサステナビリティ
時代に合わないラグジュアリーを維持すれば、環境に甚大な影響を与えます。使い捨てのプラスチック製品や紙製品の生産と廃棄に費やされるエネルギーと資源、コーヒーポッドがもたらす複雑なリサイクルの課題、洗濯に使用される水と化学物質など、地球への負担は計り知れません。
最近の旅行トレンドは本物志向とサステナビリティであり、旅行者は量よりも質と思いやりを重視しています。壁に取り付けたディスペンサーに洗面用具を設置し、寝具を簡素化、使い捨て用品の代わりに高品質な再利用可能用品を採用するなど、新しいスタンダードが生まれつつあります。
この流れを受け、プラスチック廃棄物削減をねらってデジタルルームキーを導入したり、過剰な洗濯や廃棄を最小限に抑えるために、バスローブなどのアメニティをリクエストに応じて提供したりするなど、ホスピタリティ業界は環境に優しいサービスへ舵を切っています。
シームレスでパーソナライズされた体験
ミニマリズムとサステナビリティへの転換は、単に物を取り除くということではなく、現代の文脈におけるラグジュアリーの意味を再考することを意味します。現代のラグジュアリーとは、ミニマリズムとサステナビリティの価値観に沿った、シームレスでパーソナライズされた体験を提供することです。コンシャストラベルへのアプローチを反映した、美しく快適で責任ある空間を創りあげることなのです。
レス・イズ・モアを取り入れたホテルは、従来のラグジュアリーの概念より個人の幸福と環境への影響を優先する現代の旅行者の共感を呼ぶことでしょう。
デジタルイノベーションやサステナブルな取り組み、あるいはサービスの質など、本当の意味でゲストの体験を高めるものに焦点を当てることで、現代のラグジュアリーを再定義できます。このアプローチは、環境意識の高い旅行者を魅了し、不必要なアイテムの購入や維持、廃棄に関連するコストを削減する画期的なビジネス手法です。
ラグジュアリーの真髄は、追加されるもの、そして考え抜かれ選ばれたものが残ることにあります。
Terence Ronson は Pertlink Limited の常務取締役。香港理工大学の客員講師を務めるほか、世界的な業界イベントの司会や講演、さまざまな諮問委員会の委員を務めています。